シンポジウムQ&A

Q01/ ミルウォーキープロトコルではどういうメカニズムで感染者が快復したのでしょうか

本プロトコルの有効性は、極めて例外的な、ごく一部の患者に認められているにすぎません。したがって、有効性のメカニズムは科学的に説明できないのが現状です。

Q02/ 鳥インフルエンザウイルスで豚は発症するのでしょうか

豚は発症しないと考えて頂いて良いです。例えば、豚にかなり高濃度の鳥インフルエンザウイルス(低病原性、高病原性に関わらず)を実験的に感染させると高い抗体応答やウイルス排出は確認されますが、ほとんど目立った症状を出しません。一方、野外での感染の場合は、他のウイルスや細菌の混合・二次感染がありますので、健康状態の悪い個体ではかなり重い呼吸器症状や全身性症状を出す例もあります。しかし逆に、ウイルスが感染しても症状を出さない不顕性感染豚の摘発は困難ですので、他の豚への感染源や場合によっては新型ウイルス発生につながる遺伝子交雑の場を提供することになります。

Q03/ 本日は第一線で活躍されている先生方から、最新の知識を教えて頂き、興味深く視聴させて頂きました。どうもありがとうございます。SARSについて質問です。2003年の大規模感染以降、目立った発生が見られていないのはなぜでしょうか?動物→人への制御がうまくいっているのでしょうか?先生のお考えがあれば教えて頂ければと思います。

2003年の発生の後も、SARSコロナウイルスに類似したウイルスが、コウモリから多数見つかっています。動物から人への制御がうまくいったというよりは、たまたま、人の世界に入り込んでこなかっただけと考えます。

Q04/ ワンヘルスの要素に環境の健康が含まれますが、生態系保全と感染症拡大の観点はどのように考えられていますでしょうか。予防法的アプローチとして、専門家のみなさまの役割はどのようなところにあると考えられていますでしょうか。

人類は生態系に大きな影響をあたえる存在です。野生動物に関しては、感染症の視点も含め、野生動物を綜合的に管理する体制や科学的データの集積等が必要と考えます。国内の状況に関しては、学術会議の「人口縮小社会における野生動物管理の在り方に関する審議」回答も、ご参照ください。(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-k280.pdf)

予防法的アプローチとしては、生態系に存在する微生物のデータ集積に加えて、感染症の拡大を防止するには、感染症の早期発見と早期封じ込め、さらにはそのための国際的な感性症の監視と情報共有[ProMed(https://promedmail.org/)など]が重要と考えます。Q9の回答も合わせて、ご参照ください。

Q05/ .ありがとうございました。素人ですみませんがご質問です。外来生物の問題もあるかと思いますが、動物の移動も制限をかけていくことも必要なのでしょうか?食するモノだけでなく、例えば、動物園や水族館などの生き物も。長い時間をかけて適材適所で発達してきた動物が人の手で移動することもちょっと気になりました。

ご指摘の通り、新興感染症の侵入を考える上で、国間の動物の移動、すなわち輸入動物のコントロールは非常に重要です。我が国では、人や動物への感染症のリスクを勘案し、動物園等の動物も含め「全ての動物」を対象に、「輸入禁止」「検疫」「届出」のいずれかの措置がとられています。届出には、輸出国政府が発行する衛生証明書が必要であり、人に危害を及ぼす感染症を排除する仕組みになっています。詳細については、下記の厚生労働省HP「動物の輸入届出制度」をご覧ください。

「https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000069864.html」

Q06/ 鳥インフルエンザは偶発的に鳥からヒトへ感染が起こり、ヒト-ヒト間での感染は通常起こらないと仰っていましたが、このとき鳥からヒトへのウイルス感染はレセプターを介さずに起きているのでしょうか?

ウイルスの感染にはレセプターが必要です。人の呼吸器細胞に豊富にあるのは“人型”レセプターですので、鳥インフルエンザウイルスが鼻から少し侵入したとしても人には感染しません。しかし、例外的に人の肺の奥の方の細胞には“鳥型”のレセプターがありますので、人に侵入した鳥インフルエンザウイルスがまれに肺の奥の方まで到達した場合には人に感染します。言い換えれば、人が高濃度の鳥インフルエンザウイルスに暴露された場合のみ、人が偶発的に感染するという理解です。この場合、人の肺の奥では鳥インフルエンザウイルスが良く増えますので、人は病気になります。しかし、ウイルスは“鳥型”のレセプターのない気道の上の方(上部気道)では増えませんので、感染した人から排出されるウイルスは殆ど無く、他の人への感染源になることはありません。従って、人―人感染は起こりません。 

Q07/ H7N9はフェレット間で伝播すると聞いたことがありますが、これがヒトでパンデミックを起こさないのはどうしてでしょうか?

H7N9ウイルスに限らず、フェレット間で伝播する性状をもつレベルまで変異をしたウイルス株はいくつか見つかっています(研究室内で人工的に作出したウイルスもあります)。しかし、フェレットはインフルエンザ研究における最も有用な動物モデルであると言っても、あくまでモデルですのでそこで得られた全ての現象がそのまま人に外挿できるという訳ではありません。また、実際にパンデミックが起こる起こらないはウイルスだけの問題ではなく、それ以外の多くのファクター(気候、運、環境、文化、政治的なもの)を含んでいます。とは言っても、フェレット間で容易に伝播する(変異)ウイルスには新型ウイルスとして人でパンデミックを引き起こす高い潜在性がある、という理解に間違いありません。

Q08/ COVID-19は、第一波より第二波の方が感染者数が増大しているが、致死率が第二波の方が致死率が低いように思います。ウイルスの変異が想定されるのでしょうか。第三波は、どのような感染者数、致死率の変化はどように想定されるのでしょうか。­

第2波になり、ウイルスの変異というより医療現場体制と治療方針が確立されたため、致死率が下がってきたのだと思います。第3波の方が、感染者は増えるのではと予想します。ただ、感染者は増える一方で、前述の理由から致死率は下がると思います。

Q09/ 今後の新規なパンデミックの発生を早期に押さえ込むために、日本、世界の国は何を想定して対応を継続すべきでしょうか。­

残念ながら、今後も新しい感染症は発生すると考えられます。新たに発生した感染症が広がらないようにするためには、早期検知、迅速な対応が不可欠です。それができるだけの科学的技術は備わってきています。ただ、それを有効に活用するためには、普段から国際社会が深く連携し、信頼関係を構築していることが重要で、また情報の正確かつ迅速な共有が不可欠です。国際社会全体が、今まで以上に真剣にそのことに取り組む必要があります。また、今回の新型コロナの流行で、一定以上の伝染力を持った新しい感染症が発生した時の脆弱な部分(検査部門、保健所、病院、行政などのリソースの不足など)が顕在化しました。通常時に余裕のない状態であれば、大幅な業務増加を伴う緊急時には、当然対応が十分にはできません。一朝一夕には、専門性の高い人材は増えませんし、設備の向上にも一定の時間が必要です。今回のようなアウトブレイクは実際に発生するのだと理解して、姑息的にではなく計画的に公衆衛生機能や医療のキャパシティを十分に高めておく必要があると思います。

Q10/ 各先生へ質問です。本日はありがとうございました。各先生のご専門の見地から、One Health、とくに生態系の側面について、どのように見ていらっしゃるか、また今後どのように進めていくべきか、コメント・提言がありましたらお願いいたします。­

グローバル化の加速や開発によって、人類が動物の感染症を持ち込み、国境を越えて広げてしまって、家畜や野生動物、生態系に影響を与えることもあります(学術会議「アフリカ豚熱(ASF、旧名称:アフリカ豚コレラ)対策に関する緊急提言 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t288-2.pdf などもご参照ください)。人獣共通感染症のみならず、広く動物の感染症に関する知見の集積や、ワンヘルスの視点と同様、異分野間の連携による対策の体制作りが重要と考えます。

Q4の回答も合わせて、ご参照ください。

Q11/ 様々な感染症対策は、宿主と病原体の共進化を妨げることにつながるように思います。どのように考えたら良いのでしょうか?

コメントいただいた通り、感染症対策は、従来の宿主と病原体の共進化を妨げることになります。一方で、共進化の過程では、ウサギが大量に死亡したように、多くの犠牲(者)を覚悟し、さらに世代交代を繰り返さなければなりません。これらを避けるため、現代社会にあっては、人類の叡智「科学の力」をもって、可能な限り犠牲(者)が少なく、短期間で感染症を制御する方策を選択することとなります。

© 2018 Committees of Veterinary Medicine and Food Safaty, Science Council of Japan